藤と観音堂 

大てまり(境内) 

 

 山手線に乗っていると、むかいの席に若い女性が座った。おもむろに化粧道具を出してお化粧を始める。最近ではそう珍しい光景ではない。あまり感じのよいものではないが、向かい側という距離感が多少の不快感をなくしてしまっているのであろう。

 日本民営鉄道協会(社)が鉄道利用者を対象にアンケートを行った「駅と電車内の迷惑行為ランキング」(広報誌『さんぽけっと』04年10月1日発行)が、公表されている。

http://www.mitene.or.jp/~itono/alt/tpc-mann.html

 大手民鉄16社の乗客を対象に「駅や電車内で最近迷惑だと思う行為は何ですか?」と聞いたもので、ベスト10に入っている行為は、「座席の座り方」「携帯電話の使用」「乗降時のマナーについて」「 所構わず電車の床に座る」「電車内で騒ぐ」「ヘッドホンステレオの音漏れ」「女性の化粧 」「荷物の持ち方・置き方」「たばこについて」「車内等での飲食」である。過去4回連続1位であった『携帯電話の使用』が2位になり、前回2位だった『座席の座り方』が1位となり、車内での化粧は過去5年間常に5から9位とベスト10に入っている。

 4月20日、東京都の石原慎太郎知事は、公共の場所で多数の人を不快にさせる行為について対策を考えるため、学識経験者らでつくる「公共空間において多数の者を不快にさせる行為の防止に関する検討会」の初会合を開いた。
 公共の場所として電車やバス、駅構内、劇場、公園などをあげ、不快な行為として、酔って絡む、傘でゴルフの練習、携帯電話での通話、ヘッドホンの音漏れ、車内での化粧、酒のにおい、キスなどを示した。
 モラルやマナーの問題とされてきた迷惑行為対策に、自治体が乗り出すのは異例であるが、注意した人が暴行を加えられるケースもあり、トラブルを恐れ、見て見ぬふりをする人が多いため「放置すれば治安悪化につながる」と判断したという。
 
 ところでお化粧をするには、鏡は必須アイテムである。先ほどの車内の女性も鏡を取り出しで、次から次へとお化粧をしていく。ふと見ると、ただ座っていたときの顔と、お化粧をしているときの顔と、あまりにも違うのである。どちらが本当の顔であろうか。
 私たちが自分の顔を知る方法は、鏡しかない。自分の顔を自分の目で見たことのある人はいないのである。大方の人は、鏡を覗くとき、自分の納得のいく顔をしてから覗く。そして、いつも自分で承知している顔が、鏡の向こうにあると安心をする。「鏡で自分の顔を見ますよ」と意識したその顔を、自分の顔と思っているだけで、だれしも本当の自分の顔は知らないのである。
 
 よくスナップ写真をもらうと、「やだ、私こんな顔していない」と多少不満をいう人がいる。「さあ、撮りますよ」といわれ、撮ってもらった写真の顔は納得がいく。知らないあいだに撮られた自分の顔は、納得がいかないのである。その顔こそ、みんなが知るところの顔であるのに。まさしく、鏡の私と同じである。

 仏さまや神さまは、本当の自分の顔を見させてくれると思うがどうであろう。


                           天主君山現受院願成寺住職 魚 尾 孝 久

 


 4月の半ばに、関西のご老人、Kさんからわたし宛に電話がありました。
「もしもし、正道さん。飛行機代を出しますからすぐに来てください。」
「どうしたんですか?」
「私は葬式をしません。お父様の光道先生に導師を頼んでありますので、親族を集めて念仏会をお願いします。それがすみましたら、私は断食断水でこの世にお別れします。日程を決めたいのでおいで下さい」
「はあ、今は無理です。ご家族のご意向もお聞きしに伺いますので、こちらからご連絡します。」と言って電話を切りました。
 Kさんは92歳、念仏一筋で大変お元気な方ですが、最近体調を崩され、たびたび病院の世話になるようになりました。どうやら老耄(ろうもう)に陥る前に、自ら生命を絶って人生の総決算をしたいとお思いになったようです。すでに献体を申し込まれ、財産分けから身の回りの一切の処分までお考えのご様子でした。奥様やお嬢さん方は、生きているうちの葬儀に違和感があり、ましてや自ら生命を縮める行為に同意などできません。師父、光道上人に伝えますと、すぐに奥さん、お嬢さんに連絡をとりました。
「生前葬儀もだめ、断食断水もだめ、では頑固なご主人を説得できません。自殺は絶対に認められませんから、私がやめさせます。そのかわり生前葬儀としての告別念仏会についてご検討下さい。」

 実は今から32年前、観智院で生前葬儀(密葬式)をおこなったことがあります。8人の子供を持つ当時67歳の女性Yさんは、やはり献体を希望しておりました。念仏信仰に生きたYさんは、白いベールをかぶって仏前に立ち、親族友人が見守る中「戒名」を授かり、仏弟子として新たに出発されることを宣言されました。列席者の中には献体を受ける医学大学の先生もいらっしゃりご挨拶を述べられました。Yさんはそれから23回忌を過ぎるまで長生きされたのでした。

 一週間後、父と私はKさんのお嬢さんのお宅を訪問いたしました。奥様もお嬢さんも
「光道先生、なんとか説得をお願いします」とおっしゃいます。そのうちKさんが遅れてやってきました。生前葬儀の実際を説明した後に光道上人はいいました。
「Kさん。奥さん、お嬢さんも告別念仏会に同意してくれた。しかし私が導師を引き受けるには条件があります。断食断水で生命を縮めることはやめてください」ところが、Kさんはどうしてもそればかりは勘弁してほしいと言うのでした。法然上人をはじめ先徳の言葉を引きながら、光道上人の説得は3時間に及びました。
「Kさん。念仏の信仰は仏様にお任せすることですよね。生きるも死ぬも如来様任せ。どんなに生きたいと願っても、仏様が『もうよろしい』と思われたら死んでいく。どんなに引き取ってくれと願っても如来様が『まだ、まだ』とお役目を与えてくださっているなら生きる定めだ。」
「あんたの生命だと思ってはいけない。授かった命だ。たとえボケても寝たきりになっても生きるのはあなたの務めです。あなたの敬愛する中野善英上人がおっしゃっているではありませんか、

み仏の 賜いし生命 この生命 果て無く生きん いと厳かに

 どうか念仏の先達として、ご家族はもちろん、念仏の後輩たちに人生最後の生き様を見せてください。」
涙を流して聞いていたKさんは、最後にしっかりと言いました。
「わかりました。生命の尊さを忘れておりました。断食断水はいたしません。光道先生、告別念仏会の一切を宜しくお願いします」
 その夜の会食は盛り上がり、気がつくと12時を廻っておりました。
さて、32年ぶりの告別念仏会、どのようにいたしましょうか?何度か関西に出張することになりそうです。興味がおありの方はお問い合わせ下さい。                                      合 掌


                              観智院  土 屋 正 道

 

知恩院山門 

参道 

大殿 

かめ(知恩院のどこにいるでしょうか) 


      

光源氏(京都 風俗博物館) 

 

(前話は、願成寺ホームページ「メルマガお申し込み」のバックナンバーにあります。)

 帝は、12歳になった光源氏の元服を決心なされた。先年おこなわれた東宮の元服に劣ることはなかった。
 清涼殿東の廂の間に玉座が設けられ、その前に冠者(光源氏)と加冠の大臣(左大臣)のお席が設えられる。光源氏が参上されると、みづらを結ったそのお顔の美しさを変えてしまうのが惜しいほどであった。帝は理髪役が髪を切るのを躊躇しているのを御覧になり、「御息所が見たならば」と、桐壺更衣のことを思い出しになられ、堪えがたき気持ちになられた。

 加冠の儀がなされた後、お休み所にて大人の装束に改められた。清涼殿の東庭にて拝舞する光源氏のお姿に、人々はみな感涙にむすばれた。帝も辛抱おできにならない。髪上げをしたならば見劣りしてしまうのではないかと心配なされたが、驚くほどに愛らしいものであった。

 加冠の大臣には皇女である人とのあいだに姫君がおり、大切に育てられていた。東宮からもご所望の話があったが、はっきりとご返事なさらなかったのは、この源氏の君に奉らんの心であったからである。帝に内意を伺うと、「それでは、この元服の折、添臥(そひぶし)に」とおっしゃられるので、大臣のそのつもりになる。

 人々がお祝いのお酒を頂戴しているところ、光源氏は親王達のいる末席にお着きになる。大臣は添臥のことをほのめかすが、気恥かしく感じられる年頃なので、ご返事になられない。

【角髪】みずら  古代の男性の髪の結い方。頂の髪を中央から左右に分け、耳のあたりでわがねて緒で結び耳の前に垂れたもの。奈良時代には少年の髪型となる。「広辞苑」

【添い臥し】そいぶし  そいふすこと。そいね。東宮・皇子などの元服の夜、公卿などの娘が選ばれて添い寝をすること。「広辞苑」


                          天主君山現受院願成寺住職
 魚 尾 孝 久

 


 ラジオが唯一の情報源であった時代から、新聞やテレビが加わり、小学生までがパソコンや携帯電話を利用している時代となった。ひと昔前の学生の楽しみというと麻雀とお酒が定番であったが、町から雀荘が消え泥酔した学生の姿は少なくなった。これも学生たちの娯楽に選択肢が増えたからであろう。世の中はあらゆる選択肢が増え、情報のアイテムが氾濫し、多様性の時代といえよう。

 教化活動の基本としては、葬儀や年忌法要を始め、修正会、彼岸法要、施餓鬼会、十夜法要と、あらゆる法要での説法であろう。印刷技術の発達によって掲示板伝道、文書伝道ハガキ伝道がおこなわれるようになった。拙寺でも「ハガキ伝道」や「テレホン説法」の経験があり、教化活動も多様化してきたなかで、時代のニーズにあった教化活動の一つとして、「 願成寺メールマガジン 」と名付けてメールマガジンを発行することにした。

 寺院という特質から、教化の対象となるのはお年寄りという現実は否定できない。また檀信徒全体からすれば、どれほどの人が、インターネットを利用しているかと考えるとその効用ははなはだ微少と思われるが、新しい形での教化活動として実験的に発信することにした。

 インターネットによるメールマガジンの配信は、お寺に足を運ぶことの少ないあらゆる世代の皆さまに語りかけることができるであろう。また拙寺のお檀家さま以外の皆さまとも、お寺とのつながりを持たせていただく方法としては最良と考えております。

 毎月一回とは申せ、浅才なわたくしにとってはかなりの重圧となっていくであろうことは想像にかたくない。三回で中止するわけにもいかず、発信を決意するのに一年もかかった始末である。

 諸大徳の応援をお願いいたしながら、皆さまとの交流の場としていきたいと存じます。よろしくお願い申しあげます。


                           天主君山現受院願成寺住職                                魚 尾 孝 久

 

  

 

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▼ 文学講座のお誘い
 願成寺公開文学講座といたしまして、『源氏物語』を読んでおります。写本(青表紙本、新典社刊)と活字本とを対校しての講読ですが、参加者全員で声を出しての読みますので初心者の方でもご自由に参加いただけます。
 現在、「須磨」の巻に入ったところで、朧月夜との事件から都に居られなくなった光源氏が、須磨へと旅立つところです。
 ご一緒に、光源氏とともに須磨への旅を始めましょう。

開催日
 毎月 第1,3土曜日(変更あり)
開催時間
 10時〜11時30分
場所
 願成寺庫裡
費用
 無料(教科書はお求めいただきます。 1000円〜2000円)
申し込み
 電話、FAX、E-mail

※ご参加をご希望の方は、檀家、非檀家を問わず、どなたでもご参加いただけます。



大施餓鬼会のお知らせ

 本年もお施餓鬼会法要を、下記のごとく厳修いたしたくご案内申しあげます。ご先祖の供養とともに、一日ではありますが、みほとけの教えにふれます良い機会ともいたしたく存じますので、お誘いのうえお申し込み下さい(当日ご参加できません方には、当寺にてお塔婆をお墓に立てさせていただきます)。

日   時
5月15日(日)  【13時】法要、 【14時】法話
供 養 料
3,000円
申 込 み
お参りの折、電話、E-mail(前日までに)

 


お 願 い

 今まで、お塔婆や香花等は、寺にて焼却しておりましたが、法改定により、平成14年12月1日から「野焼き」や「簡易焼却炉」によります、すべてのごみ等の焼却ができなくなりました。現在、願成寺にあります3基の焼却炉もすべて使用禁止となり、撤去いたしました。
  したがいまして、今後、墓参の折いらなくなりましたお花などのゴミにつきましては、下記のごとく、ご処理をいたしたく存じますので、ご理解とご協力をお願い申し上げます。


ゴミの分別

 ゴミは、次の4種類に分別してお出し下さい。

「燃えないゴミ(ビン・カン)」
市のゴミに出します
「土に返すゴミ(花・香花)」
寺にてチップにして土に返します
「土に返すゴミ(草・落ち葉)」
寺にて土に返します
「燃えるゴミ(紙・ビニール)」
市のゴミに出します

いらなくなりましたお塔婆は、寺にてチップにして土い返しますので、ゴミ箱の脇にお置き下さい。
ゴミ箱は水屋(水道)の近くに用意いたします。
飲物や食べ物は、動物が散らかしますので、お参りの後はお持ち帰り下さい。
お手数をおかけいたすことばかりでございますが、ダイオキシンをなくし、きれいな地球環境のため、切にご理解とご協力をお願い申し上げます。