「鮭」という字は、漢字のかなふりテスト には絶対に出題されない漢字である。読み仮名に「さけ」と「しゃけ」があるからで、回答がふたつ出るものは問題としては不的確であるからです。ちなみにパソコンの日本語変換辞書(MicrosoftのIME、ジャストシステムのATOK)は、「さけ」、「しゃけ」いずれを入力しても「鮭」に変更します。
広辞苑をひきますと、
さけ【鮭】
(アイヌ語サクイベ(夏の食物)からとも、サットカム(乾魚)からともいう)
広くは、サケ目サケ科のサケ・ベニザケ・ギンザケ・マスの一部などの
総称。その一種のサケは、全長約90センチメ-トル、体は紡錘形。背部
は暗青色、腹部は銀白色。秋、川をさかのぼり、上流の砂底に産卵して
後、死ぬ。生殖期の雄の吻部は著しく曲っているので俗に「鼻曲り」とい
う。肉は淡紅色で美味。荒巻あらまき・塩引しおびき・燻製・缶詰とし、卵
は筋子・イクラとして賞用。北太平洋産。アキアジ。シロザケ。しゃけ。
〈和名抄19〉
しゃけ【鮭】
サケの転。
と、ありますので、元来は「さけ」であり、学名としても「サケ目サケ科サケ」であります。わたしは、「しゃけ」の呼び名のが、しっくりとして美味しそうに思います。「さけ」は「酒」につながってしまいます。
NHKの「日本語なるほど塾」(第1巻第10号、2005.1.1)で「鮭」の読み方を取りあげています。「鮭の卵」、「鮭の切り身」の読み方を調べたもので、「サケの卵」、「シャケの卵」、「サケの切り身」、「シャケの切り身」を問うたものです。男女、世代、地域によって多少の違いがあるようですが、結論としては、一匹では「サケ」 、切り身では「シャケ」としています。
ところで食品としての鮭となりますと、またその表示が問題となってきます。鮭の缶詰のラベルの表示をみますと、「カラフトマス」とあります。不当表示と思ってしまいますが、「鮭の缶詰」の「鮭」は
サケ目サケ科の総称とするならば、問題はありません。商品名は「鮭の缶詰」とありますが、表示には「カラフトマス」となっています。
鮭は回遊魚であることも、表示問題を複雑にします。標識放流によりますと、日本の川で生まれた鮭は、外洋に出ますとアラスカ半島にまで回遊していることが確認されております。したがいまして、同じ鮭であっても釧路沖で捕れたもの、ロシアの経済的排他水域でとれたもの、外洋で捕れたものと、原産地表示には違いが生じます。
魚の名称は、出世魚の問題や、地域的な名称、和名のない魚など、多くの問題を抱えていることは確かでしょう。
ただ言えますことは、安全と分かりやすさを重視した消費者側にたった表示を願ってやみません。
何年前のことでしょうか。息子がカナダのツアーに参加したときのことです。バンクーバーで鮭釣りに挑戦したときのことです。ルアーのトローリングで3キロほどの鮭を釣り上げたときです。ガイドに「持って帰るかい?」といわれ、「はい」と答えますと、その場で内臓を摘出して、「ホテルの冷凍庫に入れておいてもらうように」といわれたそうです。ホテルの冷凍庫から飛行機の託送荷物、そしてとうとうバンクーバー沖の鮭が、成田空港に一緒に到着したのです。
成田空港動植物検疫所に持ち込みますと、検疫官が「魚は大丈夫ですよ。泳いで日本まで来てしまいますから。でも、魚をもってくる人は少ないですね。」という。 食卓に鮭がのった。息子が釣ってきてくれただけに美味しかったことを記憶しております。
ちなみに、「日本人は釣れませんとお金を損したようなこというので、積極的には進めません。」とのガイドさんの一言が印象に残っております。
天主君山現受院願成寺住職 魚 尾 孝 久
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