筑紫哲也氏がキャスターを務めるTBSのニュース番組「NEWS23」の終了時に、筑紫氏が「今日はこんなところです。」と結ぶ。何か違和感を感じるのは、私だけだろうか。「こんなところ」という表現が気になる。「こんなところ」という語句の持つイメージに問題があるのだろう。「こんなところいやだ。」「こんなところに来てしまった。」「今日できるのはこんなところだ」と、悪い場所や状態を指す場合が多く、よい状態や場所を示すときに「こんなところ」とはあまり言わないのである。
記者たちの集めた多くの記事のなかから、今日における重要度によって選別し、一定の時間枠の中で伝えられているのが、ニュースであろう。どのニュースをとっても、本日の出来事として報道しなければならないものであるはずである。その報道をもって「こんなところ」と結ばれたのでは、何かみつくろったニュースであるように思われてならない。
言葉や語句には、その使用されてきた歴史によって、おのずからその言葉の持つ意味とともに、良いイメージや悪いイメージがあったり、良い状態か悪い状態のいずれかのみに使用されることがある。
たしかに「こんな」は、「こんないいやつはいない」また「こんなひどいやつはいない」と両方に使われるが、「ところ」が付け加えられると、圧倒的に悪いイメージとなってしまうだろう。
喧嘩で相手を呼ぶとき「きさま!」という。漢字で書くと「貴様」となり、多少イメージが変わってくるので辞書を引いてみる。
き‐さま【貴様】
(近世中期までは目上の相手に対する敬称。以後は同輩または同輩以下に対して男子が用い、また相手をののしっていう語ともなる) 貴公。おまえ。きみ。好色一代男1「―もよろづに気のつきさうなるお方様と見えて」(広辞苑)
目上の人対する敬称であったものが、時代とともに変化して、軍隊で上官が部下を叱るときの第一声が「きさま!」である。まちがっても、上司を呼ぶときには使えない。いま使われるとするならば、やはり喧嘩するときであろう。
「あわれ」も同じである。古典では心深く感動することであるが、現代ではみじめな状態をいう。
バラエティー番組では「ぜんぜん、だいじょうぶ」というが、ニュースではいわないであろう。
では、よけいなことかもしれないが、ニュースの最後をどう結んだら良いであろう。「今日のニュースを○○がお伝えしました。」「以上、今日の出来事でした。」「また、明日お会いいたしましょう」等、考えられるが、きっといずれかのニュース番組に似たような表現があるのだろう。
ともかく、言葉のもつ雰囲気、少し大袈裟かもしれないが、言葉の持つ世界感を大切にしたいものである。
天主君山現受院願成寺住職
魚 尾 孝 久
|