今月の一筆は、ロンドンから書かせていただきます。旅での発見について考えてみたいと思います。5月末から6月中旬、3週間ほど、ロンドンで友達に会ったり、博物館や美術館巡りをしたり、翻訳の仕事もしたりと、充実した毎日を過ごしています。
私は、大英博物館のconservatorとして日本絵画の保存・修理の仕事のために京都に滞在していました女性と同居しておりました。その彼女が、現在ロンドンに戻り、イースト・エンドの家に住でおりますので、いわゆるハウスメートのところに泊めていただいております。
ロンドンは、とても面白い活気的な町です。たくさんの見所もありますが、いろんな人種の人々の集まる場所として、「イギリス」と言うアイデンティティーが強いところがとても面白いと思います。例えば、ロンドンの地下鉄チューブの効率の悪さを批判すると、友人曰く、「イギリスは世界初の先進国のため、一番早く機械化したが、今はもはやその設備が古くなり、そこから進化していない」(何人か同じような答えをしました)。チューブはもともと馬車が走るためでありとても狭い、夏は暑くって息苦しい、またよく電車が遅れたり止まったり、駅が閉まってしまったり日本では考えられない様な問題がおきます。しかし、ロンドンの人は案外それをしょうがないと受け入れ、プライドを持っているように語る者もいます。
また、私が泊まっているイースト・エンドにはいろんな人種が住んでいて、イギリスとは思えないような風景が見られます。道を歩いているとイスラム教徒のパキスタン人が白いチューニックとネール・キャップ(Nehru
cap)を着衣して歩いていたり、サーリを着た女性などよく見かけます。お店も「ここはどこ?」と思うようないわゆる「エスニック・ショップ」や様々な国の料理屋さんも一杯あります。このような多様性こそがロンドンの特徴で、一般的にこれが良い事だと思われています。
ロンドンでもう一つ面白いと思いましたことは、日本との文化交流が結構盛んにおこなわれていることです。大英博物館ではJapanese
gallery で色々と展覧会や企画が行われたり、ロンドン大学のSOAS(スクール・オブ・アフリカン・アンド・アジアン・スタディーズ)では、様々な専門家や学者などが日本の歴史、美術史、考古学、宗教、思想や文学などの分野で研究をしています。
先日は学習院大学のある美術史の教授がロンドンに夏の間滞在するとのことで、歓迎会が催されました。ロンドンの美術史関係の方々が集まり、いろんな人と会う機会があり、こんなに熱心に日本文化を大事に思い、興味を示している人がいることに驚き、そして嬉しく感じました。
むろん、イギリスはどこの国と同じように様々な社会問題を抱えていますが、多数の文化を受け入れながらも、イギリスらしさを保つことは凄いと思います。イギリス人が持っているアイデンティティーやプライドに驚き、感動しました。。
やはり、アイデンティティーと言うものは、とても大事だと思います。普段、余り意識しませんが、「私は誰なのか」という基盤をしっかり持つのは大切です。私にとってこの基本は「お念仏」です。特別に考えなくても、いつも私の中に持っている基盤。毎日の生活の中では当たり前のようですが、この当たり前なことを見捨てることで自分を失ってしまう危険があるのです。お念仏の信仰を持つ自分がいるからこそ、どこに行っても他の文化を受け入れながらも私は私でいられるのです。日本を離れて、旅の中でこのようなことを思いました。
原 真 理
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