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第2巻「帚木」その27
空蝉との出会い
それから5〜6日して、紀伊守が例の子をつれて参上した。すべてが美しいというわけではないが、優雅なようすで上品なことが見える。お召しになってたいそう親しくお話になる。子供心にもたいそう立派で迎え入れられたことをうれしく思う。君は、姉君のことを詳しくお聞きになる。しかるべきことなどは、お答え申しあげなどして、恥ずかしそうに落ち着いているので、さらに姉君のことを言い出しにくい。しかし、たいそう丁寧に説得してお話になられる。このようなことであるかとひとまず心得るが、思いの外のことであったので、幼心にもとくに詮索もしない。
君からの手紙を持って帰ってきたので、姉君は浅ましいことにと涙まで出てきた。この子の思っていることもきまりわるく、しかたなく御文を顔を隠しながらひろげた。たいそう多くのことが書いてあり、
「見し夢を あふ夜ありやと なげく間に 目さへあはでぞ ころも経にける」
(夢にみたことが正夢になってお会いできる夜があるであろうか、嘆くうちに目までが合わなくなってしまい何日も過ぎてしまった、夢さへ見ぬ夜であるので。)
などと、目も及ばない筆遣いのさまも涙で見えなくなり、心づもりのない宿世に合うわが身の上を考えながら横になられた。
次の日、君が小君をお召しになったので、小君は参上いたすのでご返事を求める。
「このような御文を見る人もいませんと、申しあげよ。」
とおっしゃると、小君はうち笑いて、
「まちがいなどございませんと申しあげましたものを、どうしてそのようなことが申しあげられましょう。」
というと、残りなく申しあげ知らせていると思うに、つらく思うこと限りない。
「さて、大人びたことは言わないがよいぞ。そうでなければ参上なさるな。」
と、不快に思われる。小君は、
「お召しあるのに、どうして参上しないことができましょう。」といって参上した。
(小君の役割は?)
天主君山現受院願成寺住職
魚 尾 孝 久
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