メルマガの「ネタ」がなくなると、しばしば登場した我が家の愛犬、いろいろと問題を起こすようになった。
十数年前、就寝中に寺に泥棒にはいられ、私の小遣いを奪われた。台所の出窓を破り、居間に掛けてあった背広のポケットから、私のその月の飲み代を持っていかれた。警察によると、眼が覚めずに良かったという。はち合わせをすると、泥棒が強盗になり危険だという。
私が鍵を閉め忘れたのならばいざ知らず、破壊してまでの侵入の対策を尋ねると、寺などの施設は防犯業者に警備を依頼すること、また犬を飼うのもひとつの方法であるとの一言が、犬を飼い始めたきっかけである。
息子が犬を飼いたがっていた時でもあり、獣医さんに相談に乗っていただき、飼いやすさと少しでも威圧感のあるようにと黒いラブラドールを家族として迎えた。家来のできた息子には良き遊び相手であり、私ども夫婦にとっても、息子とともに鎹(かすがい)の役を務めてくれている。
今年で16才になる犬は、人間でいうと大型犬であるだけに90才をとうに超えているという。さすがに老いは隠せず、介護を要するようになってきた。
眼は半分も見えないであろう、最近はドライアイで目薬がはなせない、昔は目の前を横切る蟻にさへ興味を持ったのに、今は時に物にぶつかる。自分のウンチを踏んでしまう次第である。眠りから覚めると、すぐに餌箱に顔を突っ込む。先ほど食事は済ましているのに。食べることしか興味がなく、冷蔵庫の開け閉めには反応するが、庭先を通る人には全く関心が無くなってしまった。ご用聞きの人や出前の人に、犬は元気かと聞かれる始末である。大きな声では言えないが、防犯にはほとんど役に立たなくなってしまったといってよい。
基本的には居間で飼っており、普段は居間とベランダとの境の柱に繋いである。用便などは、ベランダで用をたすように教育をした。しかし最近は用便をするためベランダに出て行くのであるが、後ろ足の力が弱り、排便スタイル(中腰の姿勢)が長く続けられないため、立ち上がって居間に戻って来てしまう。したがって用便はベランダで半分、居間に半分ということになる。
食事は、我々も犬も同じ部屋で一緒に取る。犬はすぐに食べ終える。いや3分以内に食べ終えるようでなければ、どこか具合が悪いことになる。食べ終えると、時としてウンチである。いやはや我々は食事どころではない。女房はすぐに食事をやめて始末する。いやな顔をせず、テキパキとかたづける女房の姿に感動すら覚える。すべての処理が終わって、食事が再開される。
人間と犬と一緒にしては申し訳ないが、人間でいえば介護度3というところであろうか。息子も世話をするのを厭わないように見受けられる。盃をかたむけながら、我が家の介護は完璧であると嬉しく思った。
もし私が同じように要介護となったとき、女房は同じように始末や介護をしてくれるであろうか。息子がやさしく手を差しのべてくれるであろうか…………。いや私が先に要介護となるわけでは…………。
我が家では、そろって犬によって介護の学習中である。
老いぼれた犬の写真の掲載は、あまりにもかわいそうである。そういえば若々しいときに叔父が描いてくれた絵がある。写真の代わりとしたい。
このこと、泥棒には他言無用である。
天主君山現受院願成寺住職
魚 尾 孝 久
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