(前話は、願成寺ホームページ「メルマガお申し込み」のバックナンバーにあります。)
第3巻「空蝉」その1
空蝉をあきらめない光源氏は、男色も
空蝉に会うことのできなかった源氏の君は、お眠りになれないままに、
「わたしはこのように人に憎まれたことは経験がなかったのに、今宵は初めて人の世はつれないものと思い知らされましたので、恥ずかしくてこのままではいられないと思うようになりました。」
などおっしゃるので、小君は涙さへ流して臥していた。君はたいそうかわいらしいとお思いになる。手探りで小君に触れると、細くて小さい気配のほど、髪のたいそう長くはない様子も、姉である空蝉に似ているところも思いなしか心がうたれる。強いて捜し出して空蝉のところにいくのも体裁が悪く、ほんとうに憎いとお思いになりながら夜を明かして、いつものように小君にあれこれとおっしゃらず、夜の深いうちに紀伊守の屋敷をお出になられたので、小君はたいそう愛おしく複雑に思う。
空蝉もやはり源氏の君のことが気にかかるが、君からのお手紙もない。君が懲りておしまいになられると思うと、これもそのまま縁が切れてしまうのであったならば、それもまたつまらないものである。思いを寄せてくれる振る舞いが絶えてしまうのも寂しい。今のまま終わってしまえばと思うものの、それもまた心残りであると、ただならず思い悩むのであった。
源氏の君は、気にくわない女とお思いになりながら、このままではおさまらないと御心にかかり、みっともないこととお思いになって、小君に、
「たいそう辛くもいまいましくも思うので、思い直そうと考えるけれど、本心とたがうことが苦しいので、しかるべき折をみて、対面できるようにしてくれ。」
と繰り返しおっしゃるので、小君は煩わしいけれども、このようなことでも君が自分にお言葉をかけて下さるのを嬉しく思われた。
天主君山現受院願成寺住職
魚 尾 孝 久
|