平成23年の法然上人8000年遠忌にむけて、特別な法要のあるたびにいろいろな方にお話をしていただいている。布教師さんのご法話に始まり、お医者さんに元気で健康に遠忌を迎えられるように、健康講座をお願いもした。
今回のお施餓鬼法要では、お檀家さんで新進気鋭のピアニスト瀬川玄さん、奥さまでフルート奏者の葛西賀子さんをお迎えいたし、ふたりのコラボレーションを楽しませていただいた。瀬川さんは、ドイツでの修行を終えて帰国したばかりで、各地での演奏活動をぬって、お寺での奉納をお願いいたした次第である。
前日、お父さま瀬川宏さんが、ピアノの調律にみえられた。明日の演奏にむけての準備である。お父さまは日本でも屈指の調律師であり、知名度でいえば、お父さまのが上であろう。もとはヤマハの調律師であられ、長年ドイツ、アメリカ、フランスで活躍された。日本では、国際的なピアニストの来日に同行しての調律を務めておられる。
演奏は、「海」をテーマにおこなわれた。宮城道雄の「春の海」の演奏は、一段と喝采を浴びた。じつは何年前までであろうか、三島市の広報放送を伝える曲が「春の海」であったからである。ほんとうに久しぶりに耳にする「春の海」、琴がピアノに、尺八がフルートに変わっているが、懐かしさと親しみで楽しませていただいた。
アンコールでは、浄土宗の宗歌「月影」のご詠歌を、お二人の演奏で大合唱となった。いつも口にしている宗歌であるが、参加者がひとつとなって歌う「宗歌」に感動を覚えた。
地方にあって、お年寄りが多い法要にピアノとフルートの演奏が、どれだけ受け入れられるか多少心配であった。すべてが終わってみなが帰り始めたとき、80才に近いであろうかひとりのご婦人が、妻のところにわざわざ寄って声をかけて下さった。
「久しぶりに生の演奏を聴かせていただき、きょうは大変に嬉しかったです」
と、笑みをうかべて語ってくれた。
やはり、本物は人の心を動かしてくれることができると、再認識した一日であった。妻とともに法要の準備の疲れが、心地よい疲労感に変わっていくのを覚えた。瀬川さまご夫妻、そしてお父さまに感謝した。
またの演奏をお願いしておいてよかった次第である。そう遠くない日に第2回目の演奏会が実現するであろう。
天主君山現受院願成寺住職
魚 尾 孝 久
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