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第3巻「空蝉」その8「垣間見」
小君が空蝉のところにいくと、姉君が待ち受けていてうるさくおっしゃる。
「とんでもないことなので、いろいろと紛らわしたが、人の思うことは避けるところがないので、たいそう無体なことです。このようにたいそう幼いあなたの気持をどのように思っているのでしょうか。」
といって、お責めになる。
光源氏そして姉君にすまないと思うけれども、あの御文を取り出した。さすがに手にとってご覧になる。君が持ち帰ったあの衣が伊勢の海女の脱ぎ捨てた衣と同じように汗臭いかと思うと、気がかりで、たいそういろいろと思い乱れるのであった。
西の対の君(軒端荻)ももの恥ずかしい心地がして、自分の部屋に帰ってしまった。だれの知ることではないので、人知れず思い悩んでいた。小君があちらこちら歩くにつけても胸がどきどきするけれでも,なにも御文もない。御文のないことをあさましいと思うこともなくて、落ち込んでいるのもかわいそうである。
あのつれない空蝉も落ち着いた様子であるが、光源氏のお気持ちもいい加減とは思われないご様子であるのを、昔のままのわが身であったならば,取り返すことのできないことではあるが、忍ぶことができないので、先ほどの光源氏の畳紙の片端に、
空蝉の 羽におく露の 木がくれて しのびしのびに ぬるる袖かな
(空蝉の羽におりる露のように、木陰にかくれ人目をさけて 袖がぬれる)
たとう‐がみ【畳紙・帖紙】(タタミガミの音便)
@檀紙・鳥の子などの紙を横に二つ、縦に四つに折ったもの。幾枚も重ね、懐中に入れておき、詩歌の詠草や鼻紙に用いる。ふところがみ。かいし。折紙。枕草子36「みちのくにがみの―の細やかなるが」
A厚い和紙に渋や漆を塗り、四つに畳むようにして折目をつけた包み紙。和服、結髪の道具などをしまう。(広辞苑)
天主君山現受院願成寺住職
魚 尾 孝 久
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