今回より願成寺メールマガジンに参加させていただくことになりました、願成寺副住職の魚尾和瑛と申します。身の回りのことから仏教のお話をさせていただきますのでよろしくお願いします。
さて、いま東京上野の国立科学博物館では、「大哺乳類展―陸のなかまたち―」という特別展が開催されています。この特別展は、今年 2010 年が国際生物多様性年であるとともに、「シートン動物記」を記したシートンの生誕150周年を記念して開催されております。私が参りましたのは開館直後の土曜日でしたので、家族連れからカップルまでたくさんの人が訪れていました。
この大哺乳類展では、科学博物館が所蔵するはく製や骨格標本、日本全国の博物館などから集められた標本などが、「進化」、「生活」、「生体」などに分類されて展示されています。はく製や骨格標本がずらっと展示されているさまは生きている動物と同じように圧倒されます。特に、白クマの立った姿のはく製は、横に展示されていたヒグマのはく製よりも更に大きく、段違いの迫力がありました。また、2008年に上野動物園で亡くなったリンリンのはく製標本も展示されています。
さまざま展示されているなかで、ひときわ目立つ標本があります。それは、象の鼻の標本です。アフリカ象とアジア象の二種類が展示されており、標本といえども象の鼻をまじかで観察することはなかなかできないので、時間をかけてじっくりと観察してみました。写真でおわかりになるかと思いますが、象の鼻の穴もちゃんと 2 つあるんですね。象は巨体を支える四股の代わりとしてこの鼻を手のように使います。また、この鼻は骨が入っていないので、様々な方向に柔軟に動かすことが可能なのです。あらためて象の鼻に感動しました。
さてこの象、仏教発祥の地であるインドには、アジア象の仲間が分布しています。そして象は、仏教と大変深いつながりを持っています。
お釈迦さまの母親である摩耶夫人は、白い象が体に入ってくる夢を見て、お釈迦さまを懐妊されたと経典には書かれています。また、普賢菩薩が乗られているのも白い象であり、歓喜天(別名をガネーシャ・聖天)も象の姿をしています。このように、象は仏教におきましては大切な動物であり、もっとも仏教と関わっている動物と言えます。
ではなぜ象がこれほど仏教で大切にされるのでしょうか。残念ながら経典からは、象がなぜこれほど重要かつ神聖視されるのかは読み取ることはできません。しかし、推測が許されるならば、インドにおいて象は最大の動物であったと思われます。また、時に賢く、時には想像を絶するほどの力を発揮します。このような体の雄大さと賢さ、力強さが仏教の象徴的なものになっていったのではないでしょうか。
どうぞ涅槃図におけます象を始め、いろいろな象さんたちに出会っていただけたらと思っております。また普賢菩薩は、東京のホテルオークラにあります大倉集古館や奈良法隆寺で、歓喜天は浅草本龍院の待乳山聖天などでそのお姿を見ることができます。
ふげん‐ぼさつ【普賢菩薩】 (梵語 Samantabhadra)
仏の理法・修行の面を象徴する菩薩。文殊菩薩と共に釈迦如来の脇侍で、白象に乗って仏の右側に侍す。一切菩薩の上首として常に仏の教化・済度を助けるともいう。 (広辞苑)
かんぎ‐てん【歓喜天】 クワン‥
仏教の護法神の一。ヒンドゥー教のガネーシャが仏教に入ったもの。障害をなす魔神を支配する神とされ、事業の成功を祈るためにまつられた。形像は象頭人身で、単身像と妃を伴う男女双身像がある。妃は十一面観音が魔神としての働きを封じるために現した化身だという。歓喜自在天。大聖歓喜天。略して聖天ともいう。 (広辞苑)
天主君山現受院願成寺副住職
魚 尾 和 瑛
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