段々と寒くなってきましたが、みなさま体調の方はいかがでしょうか。さて、今回は時宗の「一つ火」という法要についてご紹介しようと思います。時宗は、踊り念仏や一遍上人で有名だと思います。今回、ご縁があって一つ火の法要に参列することになりましたので、他宗派の法要ですが、いろいろな御宗派を知っていただければと思い紹介させていただきます。
この「一つ火」という法要は、神奈川県藤沢市にある時宗総本山清浄光寺(遊行寺)で行われる、遊行寺の法要のなかでも最も重んじられる法要です。正式には、歳末別時念仏会の中日の法要のことを「一つ火」といいます。私たち、浄土宗にも別時念仏会がありますが、基本的に意味は同じで、決まった日時や期間を定めて、お念仏をお唱えするのが別時念仏会といいます。
「一つ火」の法要は、前後半に分かれて行われます。まず、前半は「報土入り」と呼ばれます。これは、報土つまりは浄土往生の実践を行います。法要に参加している俗衆を一番から十八番までに定めて、その順序に従って報土に参入していきます。この報土入りでは、時宗独自のお念仏が行われています。遊行上人(浄土宗などで言う猊下にあたる方)の発声に従って、南無阿弥陀仏の阿と弥を引き延ばし、陀を張り上げて発声する、時宗独自のお念仏が堂内に響き渡ります。そして、一番から順に僧侶や参拝者(参拝者を代表して僧侶が呼ばれる)が一人ずつ呼ばれ、遊行上人から十念をいただいて、往生浄土が成ったとし、またこの世に戻り、人々を救うという還相回向の心を示します。
私たち浄土宗では、一般的に十念を唱えますし、お檀家さんとも一緒にお唱えします。しかし、時宗では十念はいただくものであり、誰でもがお唱えするものではないようで、寺院のご住職や遊行上人のみがお唱えするものなのだそうです。
そして後半が「一つ火」の法要になります。堂内の内陣は極楽であるとされ、「一つ火」の法要の前に清掃とその確認が行われ、次々と堂内の明かりとろうそくが消されていきます。ご本尊阿弥陀さまの前の明かりとその真向かいにある、お釈迦さまを示す明かり以外は消されて、堂内は暗くされていきます。そして、最後に残る二つの明かりも消され、本当の暗闇に堂内はなります。全部の明かりが消されると、係の僧侶は手探りで火打ち石を使い、火を新しく起こし、それと同時に僧侶たちがお念仏を唱え始め、それに伴って堂内は順々に明るくなっていきます。これは、無明暗夜の闇は晴れて、阿弥陀さまやお釈迦さまをはじめとする諸仏の光明が輝き念仏三昧の世界が戻ってきたことを示します。
最後に、法要に参列した参拝者に、遊行上人自ら南無阿弥陀仏とお名号が書かれたお札を配り、「一つ火」の法要は終わりとなりました。
時宗は浄土宗と同じ、浄土教系列の宗派ですが、お念仏の唱え方や衣の色などが全く違い、言うなればカルチャーショックのような感じでした。しかし、堂内にたくさんの参拝者がおり、その方々一人一人に遊行上人が手渡しでお名号を授けている姿をみますと、お念仏の力、阿弥陀さまの力は偉大であるのだなと改めて感じさせられました。
「一つ火」は毎年、11月27日に行われ、基本的には一般の方も参拝することができるようです。機会がありましたら、是非参拝していただければと思います。
天主君山現受院願成寺副住職
魚 尾 和 瑛
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