梅雨はもう明けているのではないかと思わせるほど、熱く輝いた夏の陽射しが降り注ぐ鎌倉・大本山光明寺において、「宗祖法然上人八百年大御忌」が開催された(7月5、6日)。私は現在、神奈川教区教化団理事を拝命しており、その教化団の事務所が光明寺山内に置かれていることもあって、大御忌のお手伝いをさせていただいた。
光明寺は鎌倉材木座海岸の近くにあり、強い陽射しのなか、海の風も感じられた。まさに夏本番といったそんな山内では、百年にいちどの法要ということもあり、大殿も開山堂なども熱心な檀信徒の姿で溢れていた。
法要では、「引声法要」(いんぜい)と呼ばれる独特の曲調をつけたお経が、僧侶たちによって唱えられた。また信徒たちもそこに加わって、太鼓や雲盤(うんばん)・鈴(れい)などを打ち鳴らす「鉦講」(かねこう)の強い音色が、堂内に響いた。僧俗一体となった、鮮やかとも思われる光景だった。
光明寺は神奈川県唯一の浄土宗の大本山であり、時の執権・北条経時の帰依を受け、遡ること1243年に創建された。かつては「関東総本山」といわれ、江戸幕府が定めた「関東十八壇林」の筆頭として、念仏信仰の根本道場としての役割をはたしていた。そして現在では、四季折々に花々が咲くお寺としても知られている。大御忌法要のあった時期には、茶人・作庭家として知られる小堀遠州の流れを汲む庭園の池に、数種類の蓮が華やかに咲き誇っていた。
この蓮は、仏教と縁の深い花といわれている。インドでは聖者の花ともされ、生まれたばかりのお釈迦様が蓮の花のなかで「天上天下唯我独尊」と言った、というエピソードはひろく知られているところだ。
花の清浄な姿から、蓮はまた多くの経典でも尊ばれている。人間は日々泥のような生活をしているが、信心を得たときには泥から抜け出た蓮のように、清らかな心になると説かれているのだ。
さて蓮の開花と落花には、ユニークな規則性がある。まず最初は夜明けに咲き、その花は徳利のようなかたちをしている。そして正午頃には閉じてしまい、二日目の夜明け前にもういちど開花する。このときのかたちは茶碗のようで、午後には八分通り閉じ、三日目の夕方まで皿形の花が満開となる。そして四日目の午後には、外側の花弁から散り始めてゆく。
数多い蓮の種類のひとつに、「大賀蓮」と呼ばれるものがある。この種は蓮の研究家として知られる大賀一郎博士が、昭和二十六年に千葉県検見川の落合遺跡で発掘したものだ。そこから、博士の名が取られている。約二千年以前、蓮が日本列島にもたらされたとされる時期の泥炭層に、この種子は眠っていた。そのうちのひとつが翌年に開花し、採取した種子を多くの地に分けて、全国へとひろがっていった。そして光明寺にもまた、太古の蓮が花開いている。
この蓮を観賞する「観蓮会」が、今年もまた庭園を眺める楽しみと共に、7月23日(土)・24日(日)の両日に開催される。その催しと併せて、光明寺では「献灯会」(けんとうえ)も開かれる。読経など法要の後に稚児行列をして海岸まで歩き、海難横死の諸霊および魚鱗の供養をするのだ。
宗祖法然上人八百年大御忌正当の年に巡り合えたことに感謝して、念仏を今後も唱え続けたいとの思いを、さらに強くしている。
【付記】ちなみに五月に訪れた利尻島・礼文島の旅が、自分でも予想しなかった展開となりました。当地で描いたスケッチ26点をもとに、個展を開催できる運びとなったのです。島の方々のご協力・ご尽力あってこその展覧会でもあり、その佛縁に感謝したい思いです。
日程はつぎの通りです。夏の旅行に当地をご計画されている方などがおられましたら、ぜひ立ち寄ってみてください。
「さいはての浄土に咲く花」永田英司スケッチ画展
(利尻町立博物館特別展&移動展)
○利尻町立博物館
7月10日(日)〜8月11日(木)
8月20日(土)〜8月31日(水)
○浄土宗慈教寺(利尻富士町鴛泊字本泊)
8月13日(土)〜8月15日(月)
○浄土宗専称寺(利尻町仙法志字政泊)
8月17日(水)〜8月19日(金)
国内開教使・桂林寺住職 永 田 英 司
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