富士山が世界遺産に登録されるべく、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関から勧告が出されたとの発表があった。6月にカンボジアで開かれるユネスコの世界遺産委員会で最終決定され世界遺産となる。
富士山は早くから世界遺産への登録を目指していたことを考えると、「やっと」の感がある。そもそも世界遺産とは何であろうか。「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」では、文化遺産及び自然遺産を人類全体のための世界の遺産として、損傷、破壊等の脅威から保護・保存するため、国際的な協力・援助の体制を確立することを目的としている。あくまでも保護保存が目的であるが、登録によって観光資源としての価値が上がり、経済効果を願う自治体や観光に関わる業者の思惑も見え隠れする。また富士山も入山料が新設される検討もあるという。
ところで世界遺産には3つのカテゴリーがある。
「文化遺産」 顕著な普遍的価値をもつ建築物や遺跡など。
「自然遺産」 顕著な普遍的価値をもつ地形や生物、景観などを
もつ地域。
「複合遺産」 文化と自然の両方について、顕著な普遍的価値を
兼ね備えるもの。
日本の世界遺産は「文化遺産」と「自然遺産」で 「複合遺産」はない。「文化遺産」は、法隆寺地域の仏教建造物、姫路城、古都京都の文化財(京都市、宇治市、大津市)、白川郷・五箇山の合掌造り集落、原爆ドーム、厳島神社、古都奈良の文化財、日光の社寺、琉球王国のグスク及び関連資産群、紀伊山地の霊場と参詣道、石見銀山とその文化的景観、平泉―仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺産群の12遺産がある。「自然遺産」は、屋久島 、白神山地、知床 、小笠原諸島の4遺産である。世界的にみても、圧倒的に文化遺産が多い。
富士山は一見するに自然遺産のように思われるが、文化遺産である。山としてのその美しさだけは世界遺産とはならなず、富士山に関わる文化が評価の対象となっているのである。まさしく「霊峰富士」の「霊峰」が評価されたといえよう。確かに山そのものが信仰の対象となり、文学や絵画のテーマとなることはまさしく守らなければならない文化遺産ということになる。
少し文句を付けるようであるが、遺産という言葉に違和感を感じる。辞書的には「遺産」は「前代の人が残した業績」であるので、姫路城などは武士社会が遺した遺産であるが、日本の世界遺産のおおかたは、現在もその文化が継承されている。京都奈良の寺々が登録されているが決して遺産ではなく、連綿と続く信仰であり文化であり、遺産という言葉がなじまないようにも思う。
これを機会に、富士山や世界遺産ばかりでなく、地域の文化や自然の遺産にも目を向けようではないか。
【世界遺産 】
日本は、1992年、ユネスコの世界遺産条約(「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」−1972年採択、1975年発効)を締結し、翌1993年、我が国から初めて、「法隆寺地域の仏教建造物」及び「姫路城」の2件が文化遺産として、「白神山地」及び「屋久島」の2件が自然遺産として、世界遺産一覧表に記載された。その後、1994年に「古都京都の文化財」、1995年に「白川郷・五箇山の合掌造り集落」、1996年に「原爆ドーム」及び「厳島神社」、1998年に「古都奈良の文化財」、1999年に「日光の社寺」、2000年に「琉球王国のグスク及び関連遺産群」、2004年に「紀伊山地の霊場と参詣道」、2007年に「石見銀山遺跡とその文化的景観」、2011年に「平泉―仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群―」がそれぞれ文化遺産として世界遺産一覧表に記載されている。
(文化庁ホームページより)
【富士山入山料、来夏導入目指す】
静岡県は8日、富士山の世界文化遺産登録に向けた同県の会合で、環境保全の財源に充てる「入山料」について、来年の夏山シーズンに合わせ、本格的な導入を目指す方針を示した。今年夏に試験導入したい考えだ。
富士山の世界文化遺産登録は6月、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産委員会で審議され、登録の可否が決まる。川勝平太知事は会合で「結果がどちらになったとしても、やらなくてはならないことだ」と、登録が見送られても導入の検討を進める考えを示した。登録に向け、地元として環境保全の強い姿勢を示す狙いもある。
(『日本経済新聞』平成25年4月8日)
天主君山現受院願成寺住職
魚 尾 孝 久
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