大寒が近いためであろうか、このところ日本海側の大雪、北海道内陸での厳寒情報が報道されている。
この12日には北海道の日本海側に「大雪に関する異常天候早期警戒情報」が、また道内全域を対象に「低温に関する異常天候早期警戒情報」が出された。10日には朝から列車の進路を切り替えるポイントが断続的に動かなくなり、また除雪作業が降雪に追いつかなくなるなど、道内全体で計109本が運休したという。また秋田では除雪作業中に4人の死傷者が出ている。
わたしの住む静岡県三島市では、たまに雪が舞うことはあるが、積雪となると3年に1度ぐらいで、1pほどであろうか。気温も13,14日とも玄関前にある睡蓮の水鉢も凍ることもなく、車のフロントガラスにも霜が降りていなかった。やはり温暖な地域ということになり、寒さの厳しい地域の人々のご苦労というものは、実感として今ひとつ理解できないのが正直な気持ちである。
ところで仕事の必要から、このところ三条西実隆の日記『実隆公記』を読んでいる。我が願成寺から始まった古今伝授が、宗祇法師から実隆に伝授されており、宗祇法師の動向を知るには、この『実隆公記』が最良だからである。
日記にしばしば「青女(せいじょ)」という言葉が見られる。初見は文明11年(1479)4月28日である。
「天陰、時々雨降、青女今日令参詣鞍馬寺」
天陰は曇り空のこと、時々雨が降り、「青女」すなわち妻が鞍馬寺に参詣したことを記しているのである。またその9月には、「又古今集歌十餘首宛青女可諳誦之由命之了」と、妻に古今集の歌十数首を暗記させている。どのような歌を暗記させたか興味は尽きないが、知るすべはない。
本来、「青女」は年齢が若く世慣れていない女を云うようであるが、ここで使われている「青女」は、自分の妻をへりくだっての呼称といえよう。妻の謙称には、「山妻」(田舎育ちの妻の意)、「拙妻」、「荊妻(けいさい)」(粗衣の妻の意)、「愚妻」と続くが、尊称や謙称にうるさい時代であるなかで、さすがに実隆と思うのである。
実隆の知識は、「青女」の使われ方が謙遜の妻の意だけに止まらない。文明15年(1483)11月5日の日記である。
「霽、青女如雪白水始結氷、頗難忍者也」
「霽(セイ)」は晴れ、青女は雪のごとく、白水は氷り、寒威(カンイ)は厳しい寒さで、忍びがたいとある。11月と云っても旧暦であるので厳寒期であり、晴れた空に雪が舞い、氷も張って忍びがたい寒さを表現している。しかし、雪を青女と呼び、清く澄んだ水を白水とするセンスは高く評価したい。ますます実隆に思い入れる今日この頃である。
今日我が家の青女は、お稽古に出かけた。
【大雪に関する異常天候早期警戒情報】
概ね1週間後からの7日間を対象に北陸地方など地域で平均した降雪量が平年より「かなり多い」可能性が30%以上である場合に発表します。「かなり多い」とは統計的に10%の確率(その時期として10年に1回程度)でしか発生しない現象です。地域や時期により「かなり多い」降雪量は大きく異なります。
【低温に関する異常天候早期警戒情報】
火曜日と金曜日に予測資料を検討し、7日間平均気温が「かなり高い」または「かなり低い」となる確率が30%以上と見込まれる場合に情報を発表します。
(気象庁ホームページより抜粋)
【古今伝授】こきん‐でんじゅ
中世、古今集の難解な語句の解釈などを、秘伝として師から弟子に伝授したこと。東常縁(とうつねより)から宗祇(そうぎ)に伝えられたのが始まりで、以後、堺・奈良・二条の各伝授に分かれた。
(デジタル大辞泉)
【謙称】けん しょう
自分および自分側の人をへりくだって呼ぶ呼び方。小生・てまえ・愚妻・豚児などの類。⇔敬称
天主君山現受院願成寺住職
魚 尾 孝 久
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