この12日お檀家の皆さんと大本山増上寺への初参りと国立演芸場での観劇にいって参りました。先週の大雪、そして本日の大雪のあいだで、多少寒いところもあったのですが、天候にも恵まれ素敵な参拝の旅となりました。
しばしば来ることの多い本山でございますが、お檀家さんとの参拝はほんとうに久しぶりのことで多少緊張するところもありましたが、有意義にお参りをさせていただきました。
少し我がままな考えですが、増上寺の大殿では、私どもだけの参拝といいますものは、心地のよいものでございました。
午後からは国立演芸場での中席で落語と鹿芝居を楽しんでいただきました。鹿芝居とは噺家(はなしか)がお芝居をするところから、「噺家の芝居」が「鹿芝居」と呼ばれるもので気楽に楽しめるお芝居といえます。
出し物は『与話情浮名横櫛』(よわなさけうきなのよこぐし)で、歌舞伎の演目のひとつ、『切られ与三』(きられよさ)、『お富与三郎』(おとみよさぶろう)、『源氏店』(げんやだな)などともいわれる世話物の名作である。
何か難しそうなお芝居にも見えるが、少し年配の人は、戦後の大スター歌手であった春日八郎の「お富さん」をご存じの方も多いであろう。
粋(いき)な黒塀(くろべい) 見越しの松に
仇(あだ)な姿の 洗い髪
死んだ筈だよ お富さん
生きていたとは お釈迦(しゃか)さまでも
知らぬ仏の お富さん
エッサオー 源冶店(げんやだな)
昭和29(1954)年、「お富さん」の明るいリズムは当時の世相に受け入れられ、酒宴の席は無論のこと、子どもまでもが口ずさむほどの歌として庶民に浸透していった曲です。
会話には、ソチオリンピックや時事ネタを織り交ぜるなどアドリブのおもしろさも鹿芝居の特徴である。ところで、お富を演ずる林家正雀師匠は拙寺にも出演していただいたことがありましたので、楽屋に「バターどら焼き」を差し入れましたところ、番頭がお富を訪ねるシーンで「三島願成寺さんからお菓子をいただいたのでお裾分けを」といってくれたのは、何とも小気味よいものがありました。団体のご贔屓(ひいき)筋を大切にするところも大衆演芸の良さであろう。
3時間充分堪能させていただいた。
本山でのお参り、観劇の楽しさをお檀家さんと共有させていただけましたことが、何よりの収穫です。
【世話物】せわもの
歌舞伎狂言,人形浄瑠璃の内容による分類の一つ。時代物に対する称で,江戸時代の町人社会を中心として扱った,当時の現代劇である。上方の世話物は,内容上2系統の作品がある。一つは極物(きわもの),一夜漬狂言などといわれ,巷(ちまた)に起きた心中事件や情痴の果ての殺人事件などを直ちに舞台化した。いま一つは《雁金五人男》《双蝶々》《夏祭》など,相撲取や?客の義理人情を扱う作品である。当代の世話物をそのまま上演することは禁じられていたので,江戸では一日の狂言の中に一番目の時代事と関連づけて,二番目に世話事を演じる形式を採っていた(後世,世話物をさして二番目または二番目物と称するのはこれに基づいている)。 (コトバンク)
天主君山現受院願成寺住職
魚 尾 孝 久
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