昨年、メルマガ投稿のお話いただいて早1年。毎月1回、主に旅をしたときに感じたこと、みなさまにお伝えしたいことを書かせていただきました。原稿を書いているときはまとめることに苦心して、長文になってしまったり、読みにくい文章になってしまったりと、お読みいただいたみなさまにはご迷惑をおかけしたかと思いますが、私なりに情熱を込めて書いて参りましたので、何卒ご容赦いただければ幸いです。
さて、最後の投稿は私が日頃お世話になっている知恩院と、その宿坊である和順会館についてのお話をしたいと思います。
知恩院はご承知の通り、法然上人が鎌倉時代の1175年、東山の吉水の地に草庵を結ばれたことを起源とし、入寂された遺跡に建つ浄土宗の総本山です。お念仏のふるさと「祖山」として日々たくさんの方にご参拝いただいております。
私は現在、知恩院の職員として、三門の向かいに建つ知恩院の宿坊・和順会館でフロント業務に就いています。知恩院をご存知でも、その宿坊である和順会館をご存知の方はあまり多くないと思います。
和順会館はもともと知恩院の宿坊・檀信徒会館として運営されていたのですが、2011年の法然上人800年大遠忌の記念事業の一環として建替えられ、どなたでもお泊まりいただける、レストランやカフェ、ショップを併設した開かれた宿坊としてリニューアルオープンしました。
私自身、大学時代のアルバイトで接客が好きだったことや、海外での経験を活かせると考え、和順会館を志望しました。内装がオシャレなところも決め手の一つでした(笑)とにかくモダンでカッコイイ宿坊です。
知恩院へお参りに来られたことのある方でしたらおわかりいただけるのですが、知恩院や和順会館は祇園や円山公園、青蓮院や高台寺など東山の有名な観光地から徒歩すぐの場所にあり、観光の方も大変多くお越しになります。
和順会館のフロントにいると通りがかりのお客様から「ここは何の施設ですか?」「あなたはお坊さんですか?」というご質問をよく受けます。そして、ここは知恩院の宿坊で、知恩院の僧侶もフロントスタッフをしていますとご説明をするとみなさま驚いた反応をされます。それは和順会館が、簡素で古そう、ホテルより設備が劣る、和室の部屋しかないというような、従来の宿坊のイメージからかけ離れた空間であるためだと感じています。
和順会館の設えは木材や石材をはじめ自然の素材を最大限に活かし、美術館や高級ホテルさながらのスタイリッシュな装いに仕上げられています。しかし、美術館や高級ホテルに一歩足を踏み入れると日常とは違う独特の緊張感があり何だかソワソワしてしまいますよね。
ところが和順会館に足を踏み入れるとどこからともなくお香の香りが漂い、緑豊かな参道をすぐそばに感じられ、新しいのにどこか懐かしい、気持ちが落ち着いてホッとする、不思議とそんな気分になれます。その背景には、お念仏の根本道場である知恩院の約800年もの歴史と伝統があることは言うまでもありません。
また、和順会館へお泊まりのお客様には、知恩院のおあさじ(晨朝法要・法話)へのご参加もご案内をしています。もちろん自由参加なのですが、浄土宗のお寺さんやお檀家さんなどはもちろん、一般の方にとっても宿坊宿泊の貴重な体験の一つとして、このおあさじへのご参加はご好評をいただいております。5月は5時50分にロビーを出発し、晴れていれば美しい朝焼けを眺めながら、女坂を登り阿弥陀堂、続いて法然上人御堂へお参りします。そして布教師さまの法話を聴き、和順会館へお戻りいただくという流れです。出発時はさすがに朝が早いので、みなさま眠そうな表情をされていらっしゃいますが、朝の気持ちのいい空気を吸って、お参りされた後は本当に清々しいお顔をされて戻って来られます。そんなみさなまの良いお顔を眺めながら、私もフロントで、1日頑張ろうと活力をいただいています。
仏教、寺院、信仰、お参り、ご縁、宿坊、ホテル、癒し、落ち着き、日本、国際、京都、観光、現代、アート・・・このような和順会館に関わるたくさんの要素が交ざり合いながらも互いに絶妙な調和の取れた空間を創造している。これこそが和順会館の魅力なのだと私は感じています。
そんな魅力ある和順会館へ、そしてお念仏のふるさと知恩院へ、初めての方はぜひとも、度々来られている方もまた何度でもお越しください。ユニークでフレンドリーなスタッフがみなさまをお迎えいたしますよ。
最後になりましたが、この1年間、大変貴重な機会をくださった願成寺魚尾上人、安養寺・仏心寺清水上人、そしてこれまで読んでいただいたみなさま方に心より御礼申しあげます。どこかでみなさまにお会いできることを、楽しみにしております。短い間でしたが、本当にありがとうございました。
三寳寺 田 畑 智 英
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