今年も、はや半年が過ぎ去ろうとしています。皆さまいかがお過ごしでしょうか。梅雨に入り、雨の多さに嫌気のさしている人もいるのではないでしょうか。私が修行していた三島市沢地の龍澤寺には、その昔、幕末の幕臣、山岡鉄舟が禅の修行に来ていました。その山岡鉄舟が、龍澤寺の裏山から富士山を見て詠んだと言われる句があります。『晴れてよし 曇りてもよし 富士の山 元の姿は変わらざりけり』今日は晴れていて綺麗な富士山だとか、曇っていて今日の富士山は綺麗じゃないとか言うけれど、富士山は何も変わっちゃいない。変化があるのは、良い悪いと揺れ動く己の心だ。良い富士山にしているのも、悪い富士山にしているのも、己の心次第である。という教えですね。心持ち一つで気分よく梅雨を乗り切っていきましょう。
さて、先月のことですが、岐阜県可児郡の愚渓寺(ぐけいじ)というお寺に研修で行ってきました。せっかくの遠出なので、その前に足を延ばして、長野県松本市へ行くことにしました。というのも、松本市には修行のときの同期が住職をしているお寺があり、研修にも一緒に参加するので、立ち寄ってから一緒に行くことにしたのです。住職は修行の同期ですが、大学時代から仲の良かった親友です。奥さまも大学の後輩なので古くから知っています。奥さまには十年以上も会っていないので、久しぶりに会えるのも楽しみでした。
研修の前日、まずは同期が住職をしている松本市の恵光院へと顔を出しました。玄関を入って韋駄天(いだてん)へとお土産をお供えすると、住職と奥さまが出迎えてくれました。
韋駄天とはお寺の玄関を入ってすぐの所に祀られている神さまです(*台所に祀られていることもありますが)。諸説ありますが、お釈迦さまをおもてなしするために町へと急いで食材を集めに走った事から、お客さまをおもてなしする神さまと言われています。そこから、速く走る人のことを『韋駄天』と呼びますし、走って食材を集めたことから『御馳走』という言葉も生まれました。
その晩は、松本市の美味しいものを、まさしく御馳走になりました。
翌日、研修会へ出発するまでには時間があったので、せっかくですから『国宝 松本城』を見学しに行ってきました。松本城へ着いたときはまだ9時過ぎでしたが、すでに大勢の修学旅行生が列を作っていました。
松本城へ入り天守閣へ登ろうとすると、そこには『大きな荷物を持っての入場をお断りしております』の文字が。ボストンバックをコインロッカーへ預けて中に入っていくと、納得しました。天守閣へは城内の階段を登っていくのですが、その階段、狭いし、急だし、段差の幅の高いこと。段数140段。最大斜度61度だそうです。1段がひざ上位の高さはあるので、全身を使って登っていくため、荷物は邪魔だし危険にもなるのですね。ただ、本当の恐ろしさは、まだ後に待っていました。
城内では各階に展示品があり、城内部の作りの説明書きと共に、勉強になります。最上階まで登ると全方向の景色が見られるようになっていて、北アルプスの山々を見渡すことができます。
そんな素晴らしい景色に感動した後に、突き落とされます。あの急で高さの幅が広い階段が待っていたのです。上りは全身を使って登れば良かったのですが、下りは急傾斜の足場を踏み外さないように気を付けながら、高さの幅があるので一段ごとに足に衝撃が加わります。降りきって外に出た時には、足がガクガクになっていました。
人が多いので、少しずつ進むのに合わせて階段を降りていくのも、自分のペースでは進めずに疲れてしまう原因でした。5月の平日で開城してすぐの時間帯でこうなのですから、土日や、ゴールデンウィークはどれほどのものかと思います。
当然、その日の午後の研修会の時には、足の痛みで私だけ動きがぎこちなかったことは言うまでもありません。
しかしながら、壮大な迫力のある国宝「松本城」、外から見るだけではなく、視点を変えて内から見る、一度はそんな経験をしてみても良いでしょう。
どんな物事も視点を変えて見てみると、新たな発見があり、人を成長させてくれることでしょう。
地福山宝鏡院住職
林 晴 雄
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