毎年彼岸の中日になると、田畑や墓地などに「彼岸花」が満開となる。9月の10日頃になると、土から花芽が出てきて、数日で満開となる。葉はひとつもなく、花だけの真っ赤な世界である。したがって9月上旬に草を刈っておくと、彼岸花だけの独壇場となるわけである。じつに季節感100%の花である。
異名も多く、法華経には「曼珠沙華(まんじゅしゃげ)」、「死人花(シビトバナ)」、園芸上で「リコリス」とよばれている。
彼岸花には、毒があることもよく知られていることである。いわゆる「自然毒」である。ヒガンバナ科の植物には、アルカロイド、リコリンが含まれており、厚生労働省は、2006 年6月29日、さいたま市の小学校で行われた総合学習授業の中で、ノビルと間違えて2日前に校庭で採取されたタマスダレ(ヒガンバナ科)を食べた児童18人の内、15人が吐き気を訴えた。全員、その日のうちに回復した事例を掲載し、誤食を喚起している。
また、緑化したジャガイモを食べるなど、教育の場での誤植事故が多いことは、教員の社会性欠如によるものであろう。
お寺では、彼岸花とともに「シキミ樒、?」もまた毒のあることはよく知られている。いわゆる土葬の時代から、獣が墓地を暴くのを防ぐとの、まことしやかな伝承から、今日まで利用されている。墓参にはシキミを供え、秋のお彼岸には彼岸花を愛でるのは、秋の風物詩である。
ところがである。今年はお彼岸の中日になっても、彼岸花が満開とならないのである。まだ蕾みが多く、1週間ほどの遅れである。猛暑によって、彼岸花の体内時計に狂いが生じたのであろうか。
今年だけの事例と考えたいのだが。
【曼珠沙華】まんじゅしゃげ
({梵}manjusaka の音訳)
仏語。赤色(一説に、白色)で柔らかな天界の花。これを見るものはおのずからにして悪業を離れるという。四華の一つ、紅蓮華にあたる。日本では、彼岸花(ひがんばな)をさす。
法華経‐序品「是時天雨曼陀羅華、摩訶曼陀羅華、曼殊沙華、摩訶曼殊沙華、而散仏上及諸大衆」(JKナレッジ)
【自然毒】しぜんどく
動植物の中には体内に毒成分(自然毒)を持つものが数多く知られている。毒成分は一般的には常成分であるが、成育のある特定の時期にのみ毒を産生する場合や、食物連鎖を通じて餌から毒を蓄積する場合もある。これら自然毒を含む動植物による食中毒は、細菌性食中毒と比べると件数、患者数はそれほど多くないが、フグ毒やキノコ毒のように致命率の高いものがあるので食品衛生上きわめて重要である。(厚生労働省HP)
【アルカロイド】
({英}alkaloid )植物体中に存在する窒素を含む塩基性有機化合物の総称。有毒なものが多く、微量で、人や動物に顕著な薬理作用を及ぼすので、興奮剤、麻酔剤など薬用となるものもある。植物体中での生理作用はあまり重要でない場合が多い。ニコチン、カフェイン、キニン、コルヒチン、モルフィン、アトロピン、ムスカリン、ベルベリンなど約500種に及ぶ。植物塩基。(JKナレッジ)
【体内時計】たいない‐どけい
生物の体内にあるとされる、時間を計る仕組み。生物を、光や温度などの外界条件が一定の環境においても、その活動性が日周期性を示すのは、体内時計によるとされている。生物時計(JKナレッジ)
天主君山現受院願成寺住職
魚 尾 孝 久
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