わたしは「魚尾(うおお)」とう苗字であるが、どちらかというと気に入っている。珍しい苗字で、多少調べたが親族以外にはいない。聞くところによると、先祖は山口県出身で料理屋を営んでいたというから、すべての国民に苗字(名字・姓)を名乗ることを義務付けた明治8年「平民苗字必称義務令(へいみんみょうじひっしょうぎむれい)」によって苗字が付けられたのであろう。景気のよい料理屋であれば「魚の尾」ではなく、「魚の頭」である「魚頭」であろうか。
ネットで検索するに、全国で10万、20万ともいう苗字のなかで、31,011位であり、およそ100人ほどであるという。明治初めからおよそ3世代4世代になるので、100人というのは妥当であり、ほぼ一族と考えてよいであろう。
「魚尾」を辞書で引くと
【魚尾】ぎょ‐び
(1)魚の尾。
(2)人相学で目尻をいう。ここにほくろや傷などあるのは女難の相といわれた。
(3)和書などの折り目(版心)にある魚の尾形の飾り。白魚尾と黒魚尾とがある。
とあり、和書などの折り目にあり、現在の一般的な原稿用紙にも、二つ折りの中央を示すマークとして使われているが、意味はおろか、存在すら気がついていないであろう。
群馬県多野郡神流町に大字として「魚尾」がある。「よのお」と読むそうであるが、今回初めて知った。機会があったら訪ねてみたい。
珍しい苗字なので、名刺には仮名を振り、一度で覚えてもらえるので便利である。昔の話であるが、叔父が勤務する高校で小火(ぼや)騒ぎがあり、学校のため新聞報道された。「○○学校(魚尾○○校長)で火災」とあるため、「何人からおまえの親戚か?」と問い合わせがあった。
3月まで勤めていた大学に息子も入学してきた。僧侶資格を取得するため、親子で在籍していることはかなりある。校内では話すこともなく、親子であることが判らないのであるが、苗字が変わっているだけに判ってしまう。息子に「おまえの親父に、単位を落とされた」と言った学生もあったが、「うちの親父は、よほどのことがない限り落とさないよ、出席日数が足りなかったんだろう」といってやったという。
大学で息子に会うと、「魚尾くん、ちゃんと勉強しているかね?親に心配をかけないようにね」と声をかける。隣にいた友達が驚いて「だれ」と聞いている。わたしには返事がないが、「おやじだよ」とムカッとした声が聞こえてくる。年に2〜3回のことであるが楽しい。
あるとき、大学に行くとき財布を忘れてしまった。取りに帰る時間がなかったので、ポケットに入っていたお金で行くことはできたかが、帰りの電車賃がない。携帯で息子を呼び出し、1万円借りた。校内で、教員が学生を恐喝しているようにも見えたかもしれない。
「魚尾」いう苗字では、誰しも僧侶と思われることはなく都合の良いこともあるのですが、生臭坊主と思われるのも…………。
天主君山現受院願成寺住職
魚 尾 孝 久
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