春を迎え、日に日に暖かさを増す今日この頃である。冬野菜は、一斉に花を咲かせ種をつけ始める。菜の花が、その象徴であろう。
気温が上がり長日になると、おおかたの冬型の植物は、生殖成長を始め子孫を残す準備に取りかかる(夏野菜は、涼しくなり日が短くなると生殖活動を始める)。冬の間、鍋料理などで活躍してきた長ネギや葉ネギも例に漏れず、生殖成長を開始して、まんなかから「ねぎ坊主」が顔を出す。生殖成長を始めると、あらゆる野菜が、より大きな体を作ること止め、全エネルギーを種を作ることに特化する。いわゆる頭立ちで、茎が堅くなり、花を守ろうとするのである。よって食味は極端に悪くなる。
「あーあ、坊主が出てきてしまった!」と、ネギの撤収がはじまる。まだネギ坊主がほんのすこし出始めたころ、収穫して大量消費を考える。「ネギ焼き」である。いわゆる「お好み焼き」で、キャベツのかわりにざく切りしたネギでつくる。和製の「キッシュ」「ケークサレ」であろうか。子供から年寄りまで、酒の肴、ビールやワインにも合う。ソースとマヨネーズで食するのが一般的であろうが、韓国の「チヂミ」に見立て、ポンズもまたうまいものである。若い坊主の、天麩羅もよいという。なにか共食いのようにも思えるが。
それにしても、「坊主」は嫌われているようである。「くそ坊主」にはじまって、子供を上目線から呼ぶときも「おい、坊主」と、究極は百人一首の「坊主めくり」、「坊主まるもうけ」など。
水商売などで一人も客が来ないと「今日は、坊主だ!」、釣りで一匹も釣れないときは「今日は、坊主だ!」という。
坊主が喜ばれるものを探すと、一つだけあった。花札である。絵札には花札であるので必ず花が描かれているが、なぜか8月の絵柄は芒(すすき)で丸い黒い山が書かれている。絵柄から坊主と呼ばれるのも納得である。坊主に月の絵柄は20点札で喜ばれる。
ところで、本来の坊主は日本国語辞典によると、次のごとくある。
(1)仏語。大寺院の中の、一坊の主僧をいう。僧房のあるじ。 寺房の住職。「房主」とも書く。房主。
(2)僧侶の俗称。室町時代以後、行なわれた称呼。
(3)髪を剃(そ)ったり短く刈ったりした頭。毛のない頭。 また、その人。
本来は、自房の主(あるじ)であったので、敬意をこめた意であったが、いつから成り下がってしまったのであろうか。われわれ僧侶の言動と考えるのが妥当であろう。原点に返って慎まなければならない。
【キッシュ】フランス quiche
フランスのパイ料理の一。パイ皿にパイ生地を敷き、ベーコン・ハム・チーズなどの具を入れ、生クリームや牛乳を混ぜた塩味の卵液を注ぎ、オーブンで焼いたもの。オードブルに用いる。(日本国語大辞典)
【ケーク‐サレ】フランス cake sale
《「塩味ケーキ」の意》チーズや野菜などを加えてつくる、甘くないパウンドケーキ。(日本国語大辞典)
【坊主めくり】
使用する札は読み札のみで、取り札は使用しない。百枚の絵札を裏返して場におき、各参加者がそれを一枚ずつ取って表に向けていくことでゲームが進む。多くのローカルルールが存在するが、多くで共通しているルールは以下のようなものである。
男性が描かれた札(殿)を引いた場合は、そのまま自分の手札とする。
僧侶が描かれた札(坊主、「ハゲ」と呼ぶこともまれにある)の描かれた札を引いた場合には、引いた人の手元の札を全て山札の横に置く。
女性が描かれた札(姫)を引いた場合には、引いた人がそれまでに山札の横に置かれていた札を全てもらう。
蝉丸の札を引いた場合、引いた人は一回休み。(ウィキペディア)
【花札】(はなふだ)は、日本特有のかるたの一種。花かるた、花がるたとも。今では一般に花札といえば八八花(はちはちばな)のことで、一組48枚に、12か月折々の花が4枚ずつに書き込まれている。
48という枚数は、一組48枚だったころのポルトガルのトランプが伝来した名残である。2人で遊ぶこいこい、3人で遊ぶ花合わせ、という遊び方が一般的である他、愛好家の中では八八という遊び方に人気がある。同じ遊び方でも地域によってルールが異なったり、地域独特の遊び方も存在したりするほか、海外にも伝播している。(ウィキペディア)
天主君山現受院願成寺住職
魚 尾 孝 久
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