祖母も母も亡くなって、そこそこ年数が過ぎているので、話をしてもよいであろう。わたしが小学校4〜5年生のころであろう。祖母と母が、いわゆる口喧嘩（くちげんか）をしていた。次の日には、わだかまりもなく話をしていたので、たいした内容ではなかったと思うが、まったく記憶にない。

　ただそのときの祖母の一言が、強烈に思い出したのである。大学院に入ってからのことであるので、10数年後である。「お天道さま、見ていてくれるから」の、一言である。祖母と母の言い合いは、いつも祖母が負けていたように思う。そして最後は、その一言で終わるのである。
　祖母にしてみれば、口では自分の主張を思うように言うことができなかったが、「お天道さま」は、かならず真実を見ていて下さるとの思いであったろう。

　わたしは大学で源氏物語を専攻していた。
　桐壺帝の第一皇子が、次の帝として朱雀帝となった。第二皇子である光源氏は、皇室を出て臣下となり、王位継承権を剥奪され、帝になることはあり得なかった。それは父桐壺帝が、二人の息子の権力争いを避けるための手立てであったのである。
　帝は、第三皇子となる冷泉帝をたてる。しかし、この冷泉帝は、帝の子ではなく光源氏の子であった。誰も知るよしもないことであったが、母親である藤壺は、その出生の秘密に苦しむのである。我が子冷泉帝を守るためには、どんなことがあっても、その秘密の露見を恐れた。

　夫桐壺帝が崩御すると、藤壺は出家して帝の菩提を弔った。そして、その藤壺も亡くなると、ある阿闍梨が、その子冷泉帝に「あなたさまの父親は、帝ではなく光源氏であること」を告げるのである。阿闍梨は、首をとられるかもしれないことは充分に承知していたが、でも告げることを選択したのである。「お天道さまを誤魔化して、まつりごとをしても平安はない」との思いからの告知であった。
　藤壺は冷泉帝の出生の秘密をひとりで守ることはできず、護持僧である阿闍梨には告げ懺悔していたのである。冷泉帝もそれを知った光源氏も生涯にわたって苦しんだが、真実を知ってこそ、本当の生き方があったのである。

　「お天道さま」は、時には「仏さま」であり、「神さま」である。わたしの「生き方」、「源氏物語」を読むことは、ここに原点があると思う。

　天主君山現受院願成寺住職
魚 尾　孝 久

　ラジオが唯一の情報源であった時代から、新聞やテレビが加わり、小学生までがパソコンや携帯電話を利用している時代となった。ひと昔前の学生の楽しみというと麻雀とお酒が定番であったが、町から雀荘が消え泥酔した学生の姿は少なくなった。これも学生たちの娯楽に選択肢が増えたからであろう。世の中はあらゆる選択肢が増え、情報のアイテムが氾濫し、多様性の時代といえよう。

　教化活動の基本としては、葬儀や年忌法要を始め、修正会、彼岸法要、施餓鬼会、十夜法要と、あらゆる法要での説法であろう。印刷技術の発達によって掲示板伝道、文書伝道ハガキ伝道がおこなわれるようになった。拙寺でも「ハガキ伝道」や「テレホン説法」の経験があり、教化活動も多様化してきたなかで、時代のニーズにあった教化活動の一つとして、「 願成寺メールマガジン 」と名付けてメールマガジンを発行することにした。

　寺院という特質から、教化の対象となるのはお年寄りという現実は否定できない。また檀信徒全体からすれば、どれほどの人が、インターネットを利用しているかと考えるとその効用ははなはだ微少と思われるが、新しい形での教化活動として実験的に発信することにした。

　インターネットによるメールマガジンの配信は、お寺に足を運ぶことの少ないあらゆる世代の皆さまに語りかけることができるであろう。また拙寺のお檀家さま以外の皆さまとも、お寺とのつながりを持たせていただく方法としては最良と考えております。

　毎月二回とは申せ、浅才なわたくしにとってはかなりの重圧となっていくであろうことは想像にかたくない。三回で中止するわけにもいかず、発信を決意するのに一年もかかった始末である。

　諸大徳の応援をお願いいたしながら、皆さまとの交流の場としていきたいと存じます。よろしくお願い申しあげます。

　天主君山現受院願成寺住職
魚 尾　孝 久