60才まで煙草を吸いつづけてきた。今の書院建設の建前(たてまえ、上棟式)の日に、新しい建物は禁煙とするとのことで、皆の前で「禁煙」を誓った。それ以来13年、夢の中で隠れて2度ほど吸ったが、現実世界では煙草は吸っていない。禁煙をしているというよりも、煙草は吸わないのが正しいであろう。
煙草を吸うにはマッチが必要であり、喫茶店などでは必ずサービスのマッチをいただいてきた。スナックなどでは、いわゆる店の名前が入った100円ライターをもらってきた。さすがに台所では自動点火になり、必要とされなかったが、マッチは生活に欠かせない物であったので、くださるお店からは必ずいただいてきたのである。
しかし、今は日常生活のなかで、まったくマッチを必要とする場面がないのである。家庭の中で唯一「火」を使うのがロウソクやお線香をつける仏壇であろうか。これとて着火用のライターである。マッチは過去の遺物となってしまったのであろうか。
お寺の玄関先にお線香が置いてある。販売しているわけではないが、お墓参りの折お線香を持参されなかった人の便宜に、玄関先に販売用?に置いてある。どこのお寺でもお線香の用意がしてあるからである。そこにさらに便宜をはかり、着火用に小マッチを提供している。
ところがマッチで、お線香をつけることができない。マッチを正しく擦って火がつけられないのである。まずマッチの着火は、マッチ棒とヤスリの摩擦で着火するのであるが、普段マッチを使ったことがないのであろう、その加減がわからず何度も磨る。よって力が強すぎてマッチの軸を折ってしまうなどトラブルの連続で、お線香にうまく火をつけることができない。
基本的には、マッチ1本でお線香がつけられるようにできている。
@ お線香の紙を取り、軽く丸めて地面に置く
A 中にも紙の帯で止めてあるものは、帯も取る
B お線香を扇状に開く
(ここがポイントで、束ねたままでは付きにくい)
C 左手にお線香とマッチを持つ
D 右手に持ったマッチ棒で擦る
E マッチの火が安定したら、紙に火をつける
F すぐにお線香をかざして、火をつける
G 全体に火がつかなくても、
1/3付いたら、お線香を動かして全体に
無事、お墓参りを終えて、そのあとマッチをどうするかである。着火に何本も使い、おまけに小マッチでなかのマッチ棒も少ないので棄てられる結果となる。墓地の水屋には2立方メートルのゴミ用コンテナが置いてあるが、他のゴミとともに棄てられているのである。
そのマッチが原因かどうかわからないが、2度そのコンテナから出火した。たまたま私が居るときであったので、庫裏より消化器を持ち出し事なきを得た。それ以来、水屋に消化器の設置、お盆やお彼岸など大勢の人たちが利用するときは、夕方ホースでコンテナのゴミに放水することもある。
そこで昨年の暮れからマッチの提供を止め、お線香着火用のライターを置いた。ライターには「ご利用後は、玄関前にお返し下さい」とのシールを貼り、使用後に玄関先の所定の場所への返還をお願いしている。
とりあえず7個を用意したが足りているようである。「変わったんですね」と話はあったが、「マッチのが、よかった」「ライターになってよかった」との言葉はない。
暮れのお参り、春のお彼岸のお参りと、各ひとつが帰ってこなかったが、きっとそのうちに返却されるであろう。
天主君山現受院願成寺住職
魚 尾 孝 久
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